Loading…

資料請求はこちら

GOOD LIFE フェア2024

インタビュー出展者に聞きました

2023.08.07

住まい

どこから見ても美しい “愛でたくなる家具”を生む職人仕事

匠-TAKUMI


「ヘラチェア」は思わずなでたくなるような、ずっと眺めていたくなるような、優美なたたずまいをしている。

ひじ掛けの形が調理器具の「へら」に似ているからと名付けられたダイニングチェアは、背もたれの流れるような曲線と、広くゆったりとした座面、包み込まれるような座り心地が特徴だ。新潟県糸魚川市の工務店「匠-TAKUMI」で、一脚一脚、職人の手作業でつくられている。

イスは、家具づくりの中で最も多くの工程があり、その数は50以上にものぼるとされる。それぞれの工程を専門の技術者が分担してつくるのが一般的だが、匠-TAKUMIの家具職人・長内優依さんはすべてを一人でやりきる。

木目の流れや割れを読み解きながら角材を切り出し、パーツを削り出す。それを組み立て、刀やカンナなど十数種類の刃物を使い分け、少しずつ形を整えていく。特にカンナがけは、全身を使う力仕事だ。硬い木材ならストロークは7万回以上にもおよぶ。「目を閉じて触ったり、遠くから眺めたり。きれいなラインが出るまで、何度も微調整を繰り返します」


匠-TAKUMIはもともと、伝統的な大工技術で家づくりをする工務店だ。昨今は機械で材木を加工する「プレカット」と呼ばれる手法が主流だが、匠-TAKUMIでは、自社で天然乾燥させた材木を、自分たちの手で加工する。その材木一本一本を、ねじれや縮み、曲がりといった癖を見極め適材適所で使いながら、強度の高い骨組みをつくる。こうした熟練の手業こそ、「職人集団」を自負するゆえんだ。

家具づくりを始めたのは、社長の渡辺智紀さんが抱いたこんな思いからだった。「建築会社がつくる家具はごつくて重い。正直ダサいと思っていました。家具店に並ぶのも、流れ作業で機械でつくられたものばかりで、心が動かなかった。それで自分たちで家具をつくれたらいいな、と考えるようになったんです」

渡辺さんが長内さんと出会ったのは、その頃。長内さんは大学を卒業してアパレル会社に勤めていたが、かねて抱いていたイス職人になる夢をかなえようと、職業訓練校で一から家具づくりを学んだ。神奈川の家具製造会社に勤めていた頃、人づてに渡辺さんが家具職人を探していると聞き、「行ってもいいなら行きたいです」と直談判。およそ半年後、娘2人を連れて地縁のない糸魚川に移り住んだ。

初めは新築の住宅にあわせて1点もののテレビボードやダイニングセットなどをつくっていたが、それだけではビジネスとして採算が取れない。次第にオリジナルの家具づくりへと軸足を移していった。

渡辺さん(左から2人目)、長内さん(右)ら匠-TAKUMIの職人たち

まず取りかかったのはイス作りだ。脳裏にあったのは、デンマークの巨匠ハンス・J ・ウェグナーのイス。「世界一座り心地がよいと言われていて、どこから見ても美しい。私もそういうイスをつくりたいと思っていました」と長内さん。

だが、試作品を見た渡辺さんの反応は厳しかった。「全体的にどてっとしていて、素人がつくったようなものでした」(渡辺さん)

理想は、たたずまいに品があり、スタイリッシュで格好良いもの。そして、とにかく気持ちよく座れて、食事のときもそれ以外の時間もリラックスして過ごせるイス。そこに行き着くまでに、十数脚ものイスをつくっては壊し、を繰り返した。長内さんが自作のイスを担いでイベントに出向き、家具作家たちに座ってもらって感想を集めたこともある。


そうした試行錯誤を経て2019年に生まれたのが、ヘラチェアだ。百貨店の展示やイベントで座り心地を体感した人からは、その曲線的なフォルムに「木ではないみたい」と驚かれることも。自分に合うイスを10年以上探し続けているという人が、「やっと巡り合えた!」と喜んでくれることもある。受注生産で、いまでは1年待ちという人気ぶりだ。

「You.i. from 匠」という長内さんの名を冠したブランド名は、「職人の仕事が日の目を見るようにしたい」という渡辺さん気持ちの表れだ。「理想は、匠-TAKUMIの家具ではなく、つくり手にファンがつくこと。つくり手と使い手の距離が近いものづくりをできるようにしていきたいと思っています」(渡辺さん)

「家具づくりに終わりはない」とは、長内さんの言葉だ。実際、ヘラチェアの誕生から4年間で、すでに5回ほど改良を重ねているという。「私がよい家具だと思うのは、愛でられる家具。大事にしたいと思ってもらえるものを、つくり続けていきたいですね」