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GOOD LIFE フェア2024

インタビュー出展者に聞きました

2022.09.12

SDGsマーケット

「ない」を強みに SDGsのトップランナーは人口5千の町

上士幌町(十勝養蜂園/ノベルズ食品)


北海道の真ん中からやや南東に位置する上士幌(かみしほろ)町。毎年開かれる熱気球の大会「北海道バルーンフェスティバル」や、廃線になった旧国鉄士幌線のアーチ橋「タウシュベツ川橋梁」、日本一広い公共牧場「ナイタイ高原牧場」など、数多くの絶景に出会える町だ。

山、川、湖に加え、温泉やスキー場、グルメにいたるまで、「一つひとつのレベルが高い」と胸を張るのは、竹中貢町長。「スケールの大きな自然が、ぼーっとする時間をくれる。東京では、何もかもが24時間動いていて、人々が時間を追い越すような生き方をしているが、ここはそうではない。時間とともに生きるのが、この町です」

町では、農村地域全域に光回線を整備。自動運転バスの運行や、ドローンによる買い物支援の実証実験など、ICTの活用に力を入れている。近年、顔認証システムを採用した全15室のホテルや、Wi-Fiやオンラインミーティング用の個室を備えたシェアオフィス、宿泊できる企業滞在型施設もオープンし、ワーケーションの滞在先としても魅力を増している。

人口わずか5,000人、町域面積の約76%が森林という自然豊かな町はいま、SDGsのトップランナーとして脚光を浴びている。一時は、少子化や人口流出に歯止めがかからず存続が危うくなる「消滅可能性都市」として見られていた上士幌町を、いったい何が変えたのだろう。

2020年7月にオープンした「かみしほろシェアOFFICE」。
仕事に集中しやすい機能がそなわり、窓から臨む雄大な景色は疲れを和らげてくれる

2001年、就任したばかりの竹中町長を待ち受けていたのは、人口や税収が先細っていく町をどう存続させるかという課題だった。折しも、数年後に起こる「平成の大合併」へと全国の自治体の動きが加速していくさなか。上士幌町も隣接する町や、町民と議論を重ねた。

最終的に選んだのは、単独で「自立」する道。そのために描いた、地域資源の活用や、産業振興、住民との協働といった存続への道筋が、いまの上士幌町の姿につながっている。

子育て世代が安心できる環境づくりをするために、町は「認定こども園」の給食費も含めた保育料を10年間、全国で初めて無料に。さらに高校卒業までの医療費を全額補助するなど、ふるさと納税で得た寄付金を、思い切って子育て支援に振り向けた。ほかにも、無料の職業紹介所の設置、住宅の建築費補助といった支援策を次々と打ち出し、子育て環境や働き口、住まいといった移住への壁を一つずつ壊していった。

「移住を考えているけど、いきなりは不安」「移住先として合うかどうか、長期滞在して考えたい」という人には、“生活体験”の仕組みもある。期間は1週間~1カ月、1カ月~1年の2種類。その間の住宅はもちろん、食器や鍋などの調理器具から、冷蔵庫や洗濯機といった大型家電にいたるまで、生活に必要な最低限の備品は町が用意する。こうした積み重ねが実り、2014年を境に、町外から移り住む人が転出者を上回るように。高齢化にも歯止めをかけた。

移住にかぎらず、さまざまな形で町に足りないものを埋めてくれる「応援人口」を増やすのも大事な取り組みのひとつ。
ふるさと納税の寄付者への感謝祭「上士幌まるごと見本市」を首都圏で開いている(2022年はオンライン開催の予定)

「『うちの町は何もないから、よそに行かないといけない』と考えたら、思考停止してしまう。『何もない』というマイナスの資源は、プラスの資源にできる」と竹中町長は言う。

町の「やっかいもの」も、使いようによっては資源だ。酪農や畜産業が盛んな上士幌町では、人口の10倍近い4万7千頭もの牛が飼育されており、ふん尿の処理が課題になっていた。そこで町では、ふん尿から牧草地で使われる有機肥料をつくり、その過程で発生するメタンガスを電気に生まれ変わらせるバイオガスプラントを導入。この肥料を使って育てた牧草を家畜が食べ、そのふん尿を再び肥料に……という農業の循環を実現しただけでなく、つくった電気は町内の公共施設や一般家庭で使われている。発電量ベースではあるが、町内の主要施設の電気を賄うことができるほどだ。

小学5年生を対象にしたSDGsの授業の様子

SDGsが国連で採択されたのは2015年のこと。竹中町長は「15年後の人口や財政規模を見据えて淡々と進めてきたことが、結果的にSDGsに合致していた」と振り返る。2021年度には内閣府の「SDGs未来都市」にも選ばれた。

町ではいま、持続可能な社会のために自分たちでできることを考えてもらおうと、小学5年生に年30時間、SDGsの授業をしている。8年後、彼らが大人になった頃、SDGsは2030年のゴールを迎える。その頃の上士幌町は、どんな未来を迎えているだろう。