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GOOD LIFE フェア2024

インタビュー出展者に聞きました

2023.08.23

オーガニック&ナチュラル

天空のティーシードオイル 放棄茶園から全国へ

たねのしずく研究所


「岐阜のマチュピチュ」「天空の茶畑」と呼ばれる岐阜県揖斐川町に「お茶の伝道師」がいる。たねのしずく研究所代表の山田泰珠さんだ。伝道師と言っても、普及に力を入れるのは茶葉ではない。茶の実のオイル(ティーシードオイル)だ。

山田さんは東京で30年ほどサラリーマンをした後、両親の出身地の揖斐川町で“茶のお守り(茶の栽培)”を始めた。そこで茶の木に白い花が咲き、実がなることを知った。「椿の仲間だからオイルが取れるかもしれない」と調べると、良質な油が取れるらしい。2016年から本格的にティーシードオイルを取り始めた。

茶農家は普通、よい葉をたくさん採るために肥料をしっかりと施す。栄養が豊富な状態で育てると、花や実をつけることはないからだ。一方、栄養が少ない放棄茶園では、茶が子孫を残すための成長へと向かい反対のことが起こる。「この地域は高齢化で放置された茶園が多かったので、いっぱい花が咲き、実もたくさんついていました」と山田さんは振り返る。

茶の実は熟すと落下するため、収穫は10月初旬からの3週間が勝負だ。地元の高齢者にアルバイトとして手伝ってもらうほか、SNSでボランティアを募った。すると、1カ月の間に東京などから延べ120人ほどが訪れた。多い時で年間1.3トンほど収穫出来るようになったという。

収穫した茶の実は、3カ月ほど乾燥させて外側の殻を取り除き、機械で圧力をかけながら、ゆっくりと搾る。するとナッツのような香りの黄緑色のしずくが出てくる。研究所は、このオイルでスキンケア商品などを作り、「SOL.」というブランド名で販売し始めた。


商品は100%国産・天然のティーシードオイルを使ったスキンケアオイル、ニホンミツバチのミツロウで作ったリップバーム、型に流し込む直前に茶の実オイルを配合して、オイルの良さを丸ごと閉じ込めた3種の石鹸など。製造は名古屋市にある障がい者の就労支援施設に委託している。

「茶畑に来た人はお茶に興味を持ってくれるのでリピーターにもなる。4月に新芽を摘んで新茶をつくり、6月に二番茶を摘む。10月に実を取ってオイルを作り、冬に番茶を作れば、一年を通して都市のお客様と交流できるし、茶葉も売れます」と山田さん。

ただ、事態はそう単純ではない。近年、急須でお茶をいれる人が減った上、茶農家の高齢化も進み、耕作されなくなった茶畑は増え続けている。だからこそ山田さんはそうした茶畑から茶の実の油を取る活動を全国に広めたい、と考えている。

しかし、「お茶の名産地では、『茶園の手入れをしていないから花を咲かせてしまう』と見られるので、花が咲くことを嫌います。放棄茶園は景観を損ねるので、茶の実のためにそのままにしておくこともなかなか受け入れられません」と山田さん。茶の実ができる環境は、名産地からすると邪魔な存在のようだ。

それでも茶の実の可能性を信じる山田さんは、搾油機を持って各地を回り、目の前で油を搾って、茶の実の利点や茶農家の現状を伝え続ける。


最近は、油搾りを体験した女性が髭ケア用のオイルを開発したり、奈良県の茶産地で、山田さんに搾油してもらったオイルを保湿クリームとして販売したりする人も現れ始めた。耕作放棄地を利用するアイデアや、地域の雇用に役立っていることが評価され、2022年に「サステナブルコスメアワード2021」企業部門の地方創生賞なども受賞した。
「全国にお茶の産地があるということは、全国に休耕茶園もある。全国で地産地消ができたら素晴らしいと思いませんか?」。そう話す山田さんの目は、ひときわ輝く。