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GOOD LIFE フェア2025

インタビュー出展者に聞きました

2023.08.22

住まい

「石央」の伝統工芸が取り組む、未来に向けた商品づくり

SEKIO Traditional Crafts


島根県西部に広がる石見(いわみ)地方。豊かな自然と歴史ロマンあふれるこの地の中央に、石央(せきおう)地域(浜田市の中山間地域)がある。

古来、民衆に愛されてきた「石見神楽」、ユネスコ無形文化遺産に登録された「石州半紙」――。風土が育んだ伝統芸能や数々の工芸が受け継がれてきた。そんな石央地域では、高齢化が進むなかで、外部の知恵も取り込んで将来を見据えた商品づくりが進められている。

平安時代中期に編纂された法令集「延喜式」に記載があり、1000年以上の歴史を誇る手すきの石州半紙。江戸時代の大阪商人らの帳簿にも使われ、火事の際は井戸に投げ込んでも、その後引き上げて乾かせばまた使うことができたと言われるほど、耐久性と強靱さに定評がある。

農閑期の副業として継承され、明治時代には6千数百戸が生産していたが、戦後はパルプ紙に需要を奪われてしまい、いまは4業者が残るだけとなった。しかし、その品質は高く評価されており、二条城や京都の寺院のびょうぶやふすま絵など国宝を含む文化財の修復に欠かせないものになっている。


江戸後期に創業した「西田和紙工房」は、1枚60センチ×100センチの和紙を多い時で年間数万枚つくる。後継者の8代目、西田勝さん(37)は「ホテルやレストランの壁面や衝立(ついたて)用に引き合いが来るようになった」と話す。アートの素材として、海外を含めてクリエーターたちの関心も高い。西田さんは「伝統を残していくため、住宅の内装など個人の需要につなげていきたい。いろんな意見やアイデアをうかがって商品づくりにいかしたい。小回りがききますから」と話す。

神話を題材に、哀愁漂う笛の音と活気あふれる太鼓ばやしに合わせて舞う石見神楽は、金糸や銀糸を織り込んだ豪華けんらんな衣装も呼び物だ。秋祭りに演じられていたが、いまは常設の舞台も整備されて、県内外から観光客がやって来る。


「株式会社佐渡村衣裳店」の代表、佐渡村孝明さん(57)は15年前、看板製作会社のサラリーマンを辞め、神楽の衣装づくりと修理を続けている。衣装の重さは15~20キロ、値段は250~300万円にもなる。金糸を縫い留める金駒刺しゅうや絵柄を盛り上げる立体刺しゅうは独自の技法だ。修理に持ち込まれる戦前の衣装などを分解しては先人の技法を学び、京都・祇園祭の山鉾(ほこ)の関係者や歌舞伎に関わる職人たちとも交流して助言を受けている。

衣装づくりの業者は石見地域で5軒ほど。最近、「神楽の仕事がしたい」と30代の女性が大阪からUターンし、佐渡村さんのもとで金駒刺しゅうの作業をしている。一昨年から額に入れて玄関や店内に飾る個人向けの贈答品用の商品を売り出した。佐渡村さんは「受け継いできた技法はもっと、もっと用途があるはず。若い人と一緒に探っていきたい」と話す。

県外から移り住んだ女性が支えている伝統工芸もある。江戸時代に生産が始まった長浜人形(土人形)だ。江戸後期、浜田藩の専売品として北前船で運ばれて、大阪や京都で親しまれた。福美さんは23年前、結婚を機に夫のふるさとに移り住んで長浜人形に出会った。「素朴で、柔らかく、温かみのある質感にひかれました」。大学で学んだ日本画と長浜人形には、泥絵の具やにかわなど共通の材料が多い。地元の伝統工芸士に師事し、自宅の一室に「島根の招き猫工房」を構えて制作を続けている。


当初、ホームページに「長浜人形」とうたったが、検索数はほぼゼロ。そこで工夫して「招き猫」とうたったところ検索が一気に伸びた。「長浜人形を残すための入り口として招き猫。まずは知ってもらわないと」と福美さん。北海道から沖縄まで全国から注文を受け、年間200個ほど制作している。地元の美術館で子どもや市民向けの絵付け教室も催している。「触れて、描いて楽しんでもらうことが、長浜人形の残る道」と話す。

石央地域には他にも、地元の土を使って茶道界で愛好される「雪舟焼」、近年個人住宅向けに需要が増えている木工の組子細工やその技術をいかした家具づくり、レザークラフト、コロナ禍にSNSで話題になった「苔玉作りキット」などの天然苔販売など、地元の資源をいかした工芸や新たな取り組みがある。石央商工会の担当者は「消費者に直接触れてもらうことは、生活に安らぎを与える商品をつくるための第一歩。脈々と受け継がれた伝統産業の今をご覧いただき、未来に続くものづくりを感じてもらえたら」と話す。