2022.09.07
GOOD FOOD&CRAFT
奈良県
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カラフルな衣装を身にまとう古代の貴婦人や四方をつかさどる聖なる神獣たち――。高松塚古墳の壁画「飛鳥美人」は、かつて全国に古代史ブームを巻き起こした。発見から半世紀。いま高松塚古墳は「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」の構成資産の候補の一つとして、奈良県などが早期のユネスコ世界遺産登録を目指している。
ところで「飛鳥・藤原」とはどんな時代かご存じだろうか?
ときは6世紀末から8世紀初頭。長らく分裂状態にあった中国では、隋や唐という統一王朝が誕生し、周辺諸国への影響力を強めていた。日本はというと、中国・朝鮮半島との交流によって先進の技術や文化の導入に取り組んだ時代だ。仏教伝来や貨幣の誕生はその一例だろう。中国を模範として日本初の中央集権国家が誕生したのもこの頃だ。
日本の詩歌の原点「万葉集」には「飛鳥・藤原」当時の人々の心情や光景がいきいきと詠まれ、飛鳥美人の壁画と同様に歴史のロマンに吸い込まれてしまう。
「飛鳥・藤原」は高松塚古墳に代表される「墳墓」のほか、飛鳥宮跡などの「宮殿跡」、飛鳥寺跡などの「仏教寺院跡」など20の資産で構成される。2007年に世界遺産としてユネスコに推薦するための「暫定リスト」に入り、その後、県が橿原市、桜井市、明日香村とともに登録に必要な推薦書の素案づくりなどを進めてきた。
「文化遺産は日本人の成り立ちを知る手がかりになる。後世のためにしっかり守っていく必要がある」と県文化資源活用課長の中川智巨さん。
世界遺産の国内登録数は、文化遺産、自然遺産を合わせて25。そのうち奈良県は都道府県別では鹿児島県、岩手県と並んで最多の3つが登録されている。1993年に「姫路城」(兵庫県)とともに日本での登録第一号も奈良県の「法隆寺地域の仏教建造物」だった。
奈良県で4つ目の世界遺産登録を狙う「飛鳥・藤原」。しかし、世界遺産に登録されるためには、世界が顕著な普遍的価値を認める必要がある。登録に向けた準備は容易ではない。県は今年6月に推薦書の素案を文化庁に提出したが、実は素案自体が提出は3回目。遣隋使や遣唐使の往来など歴史的価値は高いが、中川さんは「それを物証とともに歴史のストーリーとしてわかりやすく伝えられるかがカギ」と話す。
「飛鳥・藤原」の多くの構成資産が地下遺構で、エジプトのピラミッドや中国の万里の長城などと比べてわかりやすさに欠ける面も課題だ。日本の文化財から世界に誇る文化遺産へ。登録実現には私たち自身がその意義を考える機会が必要だろう。