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GOOD LIFE フェア2025

インタビュー出展者に聞きました

2023.07.25

健康&ビューティ

「使い捨てない」歯ブラシがかなえる、自分と向き合う新習慣

N h e s .


きっと物心がついたころから、毎朝毎晩と続けてきた歯磨き。ひとつの商品選びを通じて、その時間はライフスタイルを見つめ直すための大切な習慣に変わるかもしれない。

そんな可能性を感じさせるのが、2022年に発売されたN h e s .(ナエス)の歯ブラシ「t u r a l i s t」(チュラリスト)だ。一般的な歯ブラシの素材であるプラスチックを一切使わず、ブラシ部には天然毛を、柄の部分には家具の端材として出たブナ木を使い、「使い捨てない歯ブラシ」「自然に還る歯ブラシ」として打ち出している。

歯ブラシ製造を地場産業として支えてきた東大阪市にある株式会社プラスが、製造や販売を行う。消費材メーカーからの受注生産が中心だった従来の考え方を離れ、これまで縁を持たなかった消費者に直接訴求することで、着々とファンを増やしつつある。


1本2,200円という価格は、歯ブラシとしては一見高く感じるかもしれない。ただし、タンパク質を含む天然毛のブラシは毛先が広がりにくい特徴があり、長ければ約半年間ほど交換することなく使い続けることもできる。

さらに、購入した人の希望も受けて、昨秋からは洗浄殺菌や柄にエゴマ油を塗り直すなどのメンテナンスサービス(1,100円、送料除く)もスタートし、好評だという。「口の健康を守る」という歯ブラシ本来の品質保証の観点からメンテナンスは1回までとしているが、これによって1年近く使い続けることも可能になった。

素材だけでなく、奥側の歯まで磨きやすいコンパクトな設計や、全行程を国内で行う製造過程にもこだわりは詰まっている。


東大阪市の工場の一室で、ガタガタガタ……と小刻みの機械音が響く。国内でも数少ないという植毛職人の西本隆子さんが、細く束ねた天然毛と整形されたブナ木の柄を植毛機にセットし、ミシンを扱うように少しずつ動かしながらブラシを打ち込んでいた。柄に開けられた小さな穴の全てに毛を打ち込むと、指先で触れてブラシの状態を確認し、次の一本の作業へと移っていく。

天然毛は1本ごとに太さや固さといった状態が異なるため、電子機械を使って一律に作業を行うことはできない。製品作りの根幹を支えているのが30年の経験を持つ西本さんの技術と感覚だ。素材の入荷量も限られ、ひと月に製造するのは150本ほど。西本さんは「多くの人の手仕事を引き継いで、自分が最後に手を加えたものが、長く大切にしてくれる人へと渡っていく。作業は神経を使うけれど、とてもやりがいを感じます」と話す。

地場産業の可能性を広げながら、環境にやさしくライフスタイルにも寄り添う商品をつくる。そんなN h e s .の挑戦は、発売から短期間で業界やメディアから注目を受けるようになり、大阪府内の企業の技術に優れた製品に与えられる「大阪製ブランド」の認証や、民間団体が主宰する「ソーシャル・プロダクト・アワード」の受賞といった実績も重ねている。


それでも広報担当の村中克さんは「思いを込めて作った商品だからこそ、できるだけお客さんと直接話して、商品に触れてもらい、メリットもデメリットも納得してくれた人に買ってもらえるようにしたい」と話す。天然毛はプラスチックに比べて歯のエナメル質や歯茎に優しい反面、毛がちぎれて歯に残ることもあるなどの弱点もある。各地の販売イベントでは商品の特性を丁寧に説明し、商品にかけるこだわりを訴えてきた。

そうやって大切にする消費者とのコミュニケーションは、次なるチャレンジへのヒントも生みだす。例えば、環境への優しさに共感してくれる人のなかでも、ヴィーガンを志向する人たちからは動物毛を使っていることにネガティブな反応を示されることも。また、商品のコンセプトに共感してくれても、やはり通常より高い金額がネックだと率直に話してくれる人もいる。

そんな声も踏まえて、新しい商品シリーズの開発も進んでいる。動物毛の代わりに植物由来プラスチックを使い、チュラリスト同様の環境志向に加えて「100%アニマルフリー」をテーマとする「シカリスト」(今秋に発売予定)だ。設計やデザインのこだわりは維持しつつ、職人の手作業ではなく、より合理化した生産体制に変えることで価格も1000円ほど抑えられる見込みという。

「様々な思いをもつ人たちに対応できる選択肢を、歯ブラシを通じて実現していきたい」と村中さん。消費者との交流を大切にしながら、自社の新しい可能性を探り続ける。何げなかった歯磨きの時間が自分らしいものに、そして周囲に目を向けられる大切な習慣となるよう、提案を続けていく。