2022.09.12
GOOD FOOD&CRAFT
ニッポン麦のこころざし
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大地に広がる少し紫色がかった、はだか麦の穂が風に揺れる。5月初旬、愛媛県東温市の大麦農家を訪ねた。5~6月は麦の収穫期。収穫を前にはやる気持ちを抑えて麦の熟成を慌てずに待つ伝統行事「麦うらし」がちょうど開かれていた。
穀皮が脱穀時にはがれ落ちる特性を持つはだか麦は、雨が少なく温暖な瀬戸内地域で多くが生産されている。愛媛県は昨年の収穫量で6940トンと全国最多。しかし、はだか麦の需要は押麦、麦みそや麦茶などに限られ、収穫量に対して新規需要の拡大があまり望めない。
そんな課題の解決に立ち上がったのは、農林水産省所管の国立研究開発法人「農研機構」の浦松亮輔さん。もとは商社マンだったが、はだか麦などの大麦が持つ潜在力に魅了され、流通のプロフェショナルとして、国産大麦の消費拡大に向けた“裏方”として、生産者や加工業者、農業組合をはじめ、業界団体、行政、関連団体などとの連携に奔走する。「安価でヘルシー、そしておいしい大麦の可能性をアピールしたい」と浦松さんは言う。
大麦は食物繊維が豊富に含まれ、かつ低糖質。健康食としてだけでなく、介護食や災害食としても期待されている。大麦を粉に加工することで、小麦と同じようにパンや唐揚げ粉、クッキーなどのお菓子にも活用できる。気になるのは味だ。
「食べ比べてみて」。調理師・栄養士の飯田和子さんから勧められ、まずは小麦粉をまぶした唐揚げをパクリ。次に大麦粉を使った唐揚げをパクリ。正直言われないと気づかないほど味や食感に違いは感じられない。大麦粉を使った蒸しパンやクッキーもいただいたが、どれもおいしかった。
大麦をジュレにする試みも続いている。浦松さんは「大麦をジュレにすれば商品の幅がもっと広がり、多くの人に大麦の魅力を知ってもらえる」と期待する。
振り返ってみると、日本人は昔から麦を食べてきた。1960年に大麦の年間消費量は1人あたり約8キロ。それが近年は200グラムまで低下。大麦ブームもあって400グラムまで持ち直したが、米の消費量と比べると圧倒的に少ない。
小麦など輸入品の高騰が社会問題化する昨今。日本の食料自給率(カロリーベース)は2020年度に過去最低の37%だった。政府は30年度にそれを45%に引き上げる目標を掲げ、麦や大豆の国産化を目指している。食卓に大麦。そんな光景が日常になる日はやってくるだろうか。