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荻窪の老舗米屋が挑む「私たちだけの価値」 パンやクラッカーに新たな人気

小張精米店(1C-02)

JR荻窪駅から閑静な住宅街を少し進んだ南荻窪エリアに根ざす一軒の米屋「小張精米店」。創業した1933年から地域密着・家族ぐるみでお米のある暮らしを届けてきた。そんな会社がいま、現在3代目の小張正就さんを中心に、お米の枠を飛び越えたユニークな商品づくりに挑み、新たなファンを増やしている。

代表的な商品は、創業90年を迎えた2023年に登場し、主に自社工房での「ツキイチマルシェ」開催日にあわせてつくるという「RICE BREAD」(ライスブレッド)だ。

一般的な米粉パンと一線を画すのは、その製法。米粉からではなく、宮城県産ササニシキのお米を研いで、丸ごとミキサーにかけて生地にしている。もちもちとした独特の食感が人気を集め、遠方からわざわざ足を運んでくれる常連客もいるそうだ。食感や味わいの新鮮さだけでなく、全商品を通じてグルテンや、アレルギー特定物質28品目を使わないことにこだわり、楽しく安心な食の選択肢を提案している。

季節ごとの限定で登場するトマトやアスパラ、ピーマンといった野菜を練り込んだ色とりどりのパンも、香料や着色料を使わず、野菜本来の色と風味だけで仕上げている。こうした商品は、自社のマルシェのほかに冷凍のサブスクリプション販売やイベント出店などで提案を重ね、着実にファンが広がってきたという。

小張さんの姉の発案により、「小麦アレルギーの子どもに安心なおやつを」というコンセプトで開発した米ぬかクッキーも、シナモンなど6種類のフレーバーがあり、原材料表示を確かめて買う健康志向の消費者の心をつかんだ。いまではオーガニック専門店などで取り扱われるなど好評だ。さらに最近では、米粉と酒粕でできたクラッカーも登場した。酒粕がまるでチーズのような深いコクを生み、柚子胡椒やトマトといった和の素材がアクセントになっている。

なぜ町の米屋がパンや菓子づくりを? その背景には、時代の大きな変化があった。

小張さんによると、かつては地域の家庭を御用聞きに回れば、定期的な注文が寄せられる、それで商売が成り立っていた。しかし、世代交代やライフスタイルの変化などで長年の顧客は少しずつ減り、気づけば売上の大部分をスーパーなどへの卸売りが占めるようになった。

さらに大きな転機になったのは、2011年の東日本大震災。主要な仕入先だった福島の米が販売困難になるなど、事業の危機にも直面した。仕入れ先を全国に広げたり、価格競争の波に飲まれない米屋のあり方を考えたりするなかで、「自分たちにしか作れない価値」の模索が始まった。

こうした取り組みがひとつの成果として実を結んだのは、小張さんの妻・三保子さんがデザインを手がけた「二合米」のギフト商品だ。和の伝統色をモダンに表現したパッケージが評価され、2016年のグッドデザイン賞を受賞。これを機に、百貨店など販路が大きく開けた。それにとどまらず、小張精米店は自ら「メーカー」になる道を選び、菓子製造許可を取り、工房を構えて米ぬかクッキーの製造に取り組むようになったという。

このように事業を広げるチャレンジのなかでも、米屋ならではの強みと思いが、同社の強みになっている。

精米時に出る新鮮な米ぬかや、取引先の農家が冬場に働く酒蔵の酒粕。商品作りに当たって、これまでのコメ作りではなかなか光の当たらなかった副産物にも新たな価値を与えられるようになった。それに米屋だからこそ、「お米」であればその産地も鮮度も知り尽くし、どこよりも魅力的な商品を作れると自負している。こうした強みは、他のお菓子メーカーやパティシエには簡単にはなしえないものだ。

目にも楽しく、これまでにない食感や味が自慢のユニークなお米由来グルメ。時代を超えて紡がれてきた米屋の物語とともに味わいたい。