フェーズフリー協会
佐藤唯行 代表理事
身のまわりにあるモノやサービスを日常時はもちろん、非常時にも役立つようにデザインしていく「フェーズフリー」という概念が近年、社会に広まりつつあります。新しい商品を生み出し社会へ届ける企業にとって、この考え方を取り入れる具体的なメリットはどこにあるのでしょうか?フェーズフリー協会の佐藤唯行 代表理事に聞きました。
身のまわりにあるモノやサービスを、日常時はもちろん、非常時にも役立つようにデザインしようという考え方がフェーズフリーです。その軸足は、あくまで日常時にあります。従来の防災用品の多くは、ふだんはしまっていて非常時のとき、いざ取り出して使うものですよね。そうではなく、いつもの生活で便利に活用できるということがベースです。フェーズフリー協会は、こうした視点を持って開発された商品を審査認証する取り組みを通じて、消費者にその価値をより広く知ってもらえるお手伝いをしています。
そうですね。民間シンクタンクによる調査レポートや、国の環境政策の資料などでも「フェーズフリー」は一般名詞のように使われることが増えてきました。つまり「環境配慮」などと同じような位置づけで、フェーズフリーに配慮したモノの社会的な重要性や、ビジネスにおける付加価値が認識されるようになったといえると思います。
ビジネスの世界では一般消費者よりも早く、フェーズフリーという言葉やそれが持つ付加価値に関心を持っていました。少なくない企業が消費者に対する認知度調査を実施していて、実際に回答者からの認知は年々高まっていることを示唆する結果も出ています。近年は、そうやって企業が調査をし、開発を進め、具体的な形になった商品が消費者に届き始めているのです。まさに、これからもっと社会へ浸透していく段階になっていると思います。
「防災商品」は端的に言えば、なかなか売れにくいものだったのです。いざというとき必要なことは誰だってわかっているけれど、「いつも災害時に備えて暮らす」ということには限界があります。だから企業側も防災は社会貢献やCSRといった文脈で取り組む側面があり、利益を生み出すビジネスとして位置づけることは難しかった。
それに対して、「フェーズフリー」は日常にある商品の差別化につながる「新しい価値」なのです。企業ばかりではなく行政にとっても同じです。たとえば、フェーズフリーな公園が近所にあることをイメージしてみてください。日常時により楽しめて非常時にも役に立つ、そんな公園はより市民生活の役に立てるのです。
フェーズフリーという言葉がなかったとしても、非常時のものが、普段から使えればいいんじゃないだろうかという思いは誰しもあったと思います。晴れの日に履いている靴が雨の日でもそのまま履けるならいいのでは、とか。実際にそういう商品もあったけれど、その靴の価値を伝える言葉はこれまで存在しませんでした。フェーズフリーという共通の概念が生まれたことで、「自分たちが考えていたことってこれだったのだ」と言えるようになったことも重要なポイントです。
例えば、トヨタ自動車の「プリウスPHV」もその一例ですね。環境に優しく、低燃費だからお財布に優しい。日常の暮らしをよりよくする商品なのだけど、非常時には4、5日分の電源供給にもつながる。「非常用」の発電機を別に備えておくよりも気軽ですよね。そんな価値を表すキーワードとして「フェーズフリー」という共通の概念が生まれ、社会に伝えやすくなった。
これまで、製品開発に積極的だったのは行政や各業界の大企業が中心だったという印象を持っています。やはりマーケティングや情報収集の面で強みがあったのではないかと思いますし、うまくいかない場合のリスクに耐えられるという部分もありますからね。
ただこれからは、既存の事業ではなかなか大企業と同じ土俵では戦えなかった中規模、小規模の企業がこの付加価値を活用したとき、より大きなインパクトが生まれるとも思います。すでにフェーズフリーの認知度が浸透しはじめ、商品価値が高まるエビデンスも集まりつつある今は、全国のあらゆる企業がチャレンジすべきステージに入っていると思いますよ。実際、東京都などでも中小企業支援の一環で、フェーズフリー製品開発を推奨、サポートする取り組みが積極的に行われはじめています。
GOOD LIFEフェア2024ではフェーズフリー製品のPRを強力に行う
「フェーズフリーエリア」を設置します。
本エリア出展者は、
となるサービスも実施中。
詳しくは事務局までお問合せください!
フェーズフリーの考え方は、あくまで「日常」に軸足を置いています。「いつもの生活を豊かにしているものが、ついでに非常時の私たちの生活や命を守るようにデザインされている」から、多くの人たちが参加できるのです。逆に、これまでの多くの防災商品や危機管理グッズは軸足を「非常時」に置いてしまっていると思います。
これから製品開発に取り組む企業のみなさんも、ついその誤解へ陥ってしまいがちです。なぜなら、非常時が扱うのは「人の命」というものすごく大きなテーマだからです。美味しいとか楽しいとかよりも重いテーマなぶん、軸足を一度そちらに置くと逃れられなくなってしまうのです。
でも、私たち消費者がふだん日常を暮らしているとき、「非常時の課題を解決すること」はとても遠いのです。結局多くの人へは伝わらず買ってもらえない。買ってもらえないから、災害が発生した時にその人たちを結果として守ることができないっていうことに陥ってしまいます。
はい。日常をよりよくすることが非常時にも役立つ、という基本的な考え方を大事にしてほしいなと思います。
これはビジネスの視点でも非常に重要です。これまで、それぞれの業界で真摯に活動してきた企業にとって、同業他社との差別化をさらに考えるのって相当難しいですよね。でも、そこに「フェーズフリー」っていう価値を加えられたならどうか。
今度は対抗馬になるのは、なかなか売れずにいる防災カテゴリーの商品となります。自社商材のマーケットが、急にレッドオーシャンからブルーオーシャンに様変わりするのです。それに気づく企業がもっと増えて、あらゆるジャンルでフェーズフリーの商品が増えていけばよいなと思います。災害に強い社会を実現したいと活動している私たちにとっても、とてもうれしいことなのです。
社会問題を解決する唯一の方法は、社会全体が参加することなのです。一部の大手企業や一部の行政だけが頑張っても、世界中で起きている災害や社会の問題を解決することはできません。災害時に必要なものは、懐中電灯やヘルメット、非常食だけではないのです。おもちゃだって、音楽だって、お笑いだって必要とされる場面があります。そうしたあらゆるものにフェーズフリーの概念がつながるとよいなと思っています。
主催者として重視しているとのことですが、GOOD LIFEフェアに来場する消費者は、非常に感度が高い人たちが多い印象を持ちました。協会のブースにも数人のスタッフを配置していましたが、3日間もうくたくたになっていましたよ。それは、本当に熱心に商品の話を聞いてくるお客さんが多かったからです。協会と連携して出展したアシックスのフェーズフリー認証ブランド「ランウォーク」の担当者からも、非常に高く関心を持ってもらえたと聞いています。
来場者は生活者だけじゃなくて、ビジネスの関係者、つまり価値を作る側の人たちも多くいらっしゃっていますね。ビジネス視察に訪れた人も、実際の展示商品や消費者の反応を見て、フェーズフリーの持つ可能性に気づいてくれた人は多かったのではないかと思います。
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GOOD LIFE」という言葉からも、トータルな人生への提案が集まるイベントだと感じています。そのなかには必ず日常と非常時という場面がある。そのどちらにも役立てる商品を提案する企業があるときに、我々としてもサポートができるのではないか、と考え協会として参加しました。
このイベントに「フェーズフリー企画」を通じて出展したいと思っていただける企業については、フェーズフリー認証の審査料を無料にして対応しています。
私たちとしては、いつもともしもの垣根をなくすことで社会全体がよりよくなるためには、より多くの企業にフェーズフリーな商品開発に取り組んでほしいと考えています。そのいっぽうで、実際に取り組む企業からは、自分たちが開発した商品が一定の審査基準をもって認められているものだということを担保してほしいというニーズをいただいており、協会として認証に取り組んでいます。こうした枠組みを通じて、「一企業の一商品」というだけでは伝わりづらい商品の方向性や価値が伝わりやすくなればよいなと考えています。
「GOOD LIFEフェアで展示される商品はすべてフェーズフリーである」。そんなイベントにいつかなるといいなと思いますよ。
様々な業界でビジネスに取り組む方々が、今までの取り組みに新しい価値を作ろうとするときフェーズフリーという切り口を思い浮かべるようになり、フェーズフリーの選択肢が多様化していってほしい。
皆さんが開発する商品が売れれば売れるほど、社会問題の解決へもつながっていく。経済的価値と、社会的価値が同時に達成されていくような概念でありたい。GOOD LIFEフェアもまた、暮らしをよりよくしながら参加する企業のビジネスが成長する展示会としてさらに成長していくことを期待しています。
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