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ストーリーPLUS

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おうち時間をやさしく照らす「kagerow」 コロナ禍の逆境で誕生

亀﨑染工(いちき串木野商工会議所)(4H-17)

端午の節句に飾る武者のぼりや、漁に出た船が、港に戻る際に掲げる大漁旗。鹿児島県に工房を構える「亀﨑染工」は、職人のこだわりが詰まった「染め物」を150年以上にわたりつくってきた老舗企業だ。

時代を映す染め物で歳月の波を乗り越えてきた同社は、コロナ禍が落ち着いたいま、日々の暮らしをやさしく照らす新しい商品を打ち出している。それは染め物の生地で照明をつつみ、柔らかな光を広げる照明器具「kagerow」(かげろう)。2023年春に発売し、「2023かごしまの新特産品コンクール」では県知事賞に輝いた。

東シナ海の漁場をのぞむ鹿児島県いちき串木野市。ここで明治2年(1869年)に創業した亀﨑染工は、遠洋でのマグロ漁など漁業が盛んに営まれてきた土地柄を映して大漁旗を長らく主力商品としてきた。

その歴史ある商品を支えるのが、伝統的な「印染」(しるしぞめ)という技法だ。

餅粉やぬか、石灰を混ぜたのりを布に塗り、その後に布を染めると、のりを塗った部分は着色せずに白く残る。そんな工程をうまく生かしてデザインを調整しながら、染料を刷毛で素早く塗っていく。こうして完成する、手作りの趣を大切にした鮮明な色合いは、亀﨑染工の商品の特徴として高く評価されてきた。

大漁旗は近年でも、結婚祝いや入学、創業、還暦祝いといった集いの場面で記念品として飾られたり、贈られたりしてきた。亀﨑染工はそれだけでなく、のれんやはっぴなど、「印染」ならではの商品を手広く扱っており、営業で活用する事業所やお祭りで身につけようと買い求める顧客も多く抱える。

こんな風に地域に根ざしてきた商いに逆風を吹かせたのが、新型コロナウイルスの流行だった。人々が集まる場を開くこと自体が難しくなってしまったからだ。

印染の商品の注文が激減するなかで、5代目となる亀﨑昌大社長が中心になり、打開策に知恵を絞った。「kagerow」は、在宅勤務が増えたこともあり、おうち時間がひろがることに着目してアイディアを練ったと亀﨑さんは振り返る。
 
染め物の生地を、LED照明を仕込んだ筒型の器具にはりつけることで、手染めならではの揺らぎある色合いを通じ、柔らかいあかりがにじみ出る。

基本の色として「あい」「いちょう」「くるみ」「はい」の4色をそろえた。いずれも落ち着いた色合いで、日常の景色やインテリアで使われる木材の色を意識したという。一つとして同じ仕上がりのものはなく、さらに設置する部屋の雰囲気にあわせてデザインをオーダーメイドで頼むこともできる。

亀﨑さんは「はっきりともぼんやりともしていて、その境界はやわらかく描かれ、にじんでもいる。照らしだされる色文様は陽炎そのものと感じていただけると思います」と話す。床やテーブルに置いたり、天井からつるしたりできる照明は、高さ26.5センチのMサイズと、高さ53.5センチのLサイズの2サイズを展開している。

伝統の技術を生かしながら、新しいライフスタイルを飾る「kagerow」は高い評価を受けた。企業の業績はコロナ禍で受けた打撃からまだ戻りきっていないといいながらも、亀﨑さんは「これからの展開をいっそう考えていきたい」と前を向く。

「印染」がいまの暮らしに映えるための提案は、ほかにも探っている。例えば、祝旗に「Congratulations!」(おめでとう)などの言葉を染め抜いてパネルに入れた、飾り用の商品。染め物職人として経験を重ねるなかで、「和柄」の洗練されたデザインを海外の人にアピールしようと考案したという。

社員数がヒトケタという規模だけに、アイディアを練り、商品として実現するまでの取り組みに小回りが利くことが、同社の強みのひとつだ。若い世代の社員も入社し、SNSによる発信に力を入れる。「代々が築き上げてきた技術を、時代に合わせながら社会に残していきたい」と亀﨑さんは話している。

(伴走型小規模事業者支援推進事業)