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ストーリーPLUS

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サラミ風のかまぼこ「魚っち」 味の決め手は、逆転の発想

浜崎蒲鉾店(いちき串木野商工会議所)(4H-17)

鹿児島県の西部、東シナ海の豊かな漁場に近い、いちき串木野市。浜崎蒲鉾店は、そんな土地柄を活かした商いに力を入れてきた企業だ。戦後まもなく創業し、食糧難だった当時から「世代を越えて親しまれる一品」を一貫して追求してきた。

そのなかでも、かまぼこやさつま揚げといった「魚肉練り製品」の味に通じた同社の熟練の職人たちがイチオシする商品がある。「サラミ風蒲鉾 魚っち(うおっち)」。ブラックペッパーとガーリックの風味が効いた味わいと、弾力が強くサラミのような食感が特長だ。社長の浜崎創さんは「魚があんまり好きではないお子さんも大丈夫ですよ」と話す。おススメの食べ方はそのままスライスしていただくのが一番だが、フライパンなどで少し熱すると風味がひきたち、冷めてもおいしいため弁当おかずにもいい。

1本453円(税込み)と値段もお手頃で、2015年度に発売し、当初の販売数は年1万本に満たなかったものの今では9万本を売り上げるほどに。浜崎蒲鉾店に足を運ぶお客さんの約8割が購入する人気商品だ。チーズ入りの商品も人気で、「ワインに合う」といった若い世代の声も届くという。

浜崎蒲鉾店は1948年に創業した老舗。食糧難の時代、地域の人々においしい食品を提供しようと、浜崎社長の祖父にあたる初代が魚肉加工品の製造を始めた。かまぼこのほか、鹿児島では「つけあげ」と親しまれる、昔ながらのさつま揚げをつくってきた。

白身魚など厳選した素材を使い、伝統の製法を活かしてすり身の食感をひきだすのが会社のこだわり。かまぼこは農林水産大臣賞を受けたこともあるなど高く評価され、80年代までは上り調子が続いた。ただその後、水産加工品の消費は、食生活の洋風化に伴って売れ行きは減少傾向に。平成に入って入社した浜崎さんにとっては、逆風下でのスタートだった。

「動かなければ何も起こらない!」。先代社長である父のかけ声をもとに、新しい時代に支持される商品の開発を目指した。売り上げが伸び悩んでいるのは、取引先の好みや意向を聞き過ぎて、「受け身」になっているせいではないか――。そんな逆転の発想から、これまでなかった様々な商品アイデアが生まれていった。

エビやイカ、チーズがちりばめられた「お魚ケーキ」、唐辛子などを効かせた「珍棒羅(ちんぼうら)」……。大人にも子どもにも好かれるには? 食感にアクセントをつけるには? 大きすぎず、小さすぎず、食べやすい大きさは? 味付けの濃さは? そんな数々の課題を乗り越えるために、新商品の試作を繰り返した。1年ほどの開発期間をへて、9年前に発売したのが「魚っち」だった。

「自分たちのやりたかった商売、自分たち作り手が食べたい味を追求しようという姿勢で商品開発に取り組みはじめました。発想の転換でした」と浜崎さんは振り返る。

繊細な工程のなかでも味がぶれない安定した品質の商品をつくるため、ソーセージをつくる機材を新たに導入するなど工夫を重ね、一定量を出荷できるまでになった。こだわりの味わいは高く評価され、「2020かごしまの新特産品コンクール」では県観光連盟会長賞を受けた。反響を受けて、いちき串木野市に構える店だけでなく、2024年5月に「魚っち」の専門店を鹿児島市に開いた。

2017年に3代目の社長に就任した浜崎さんは「地元あっての商売。従来のさつま揚げなどもあわせて大切にしながら、経営を続けたい」と語る。社員20人ほどの企業として堅実な姿勢を崩さないが、今後は自社ECサイトの運営にも力を入れて取り組もうと考えている。

漁業がさかんな鹿児島・いちき串木野市で地元住民から親しまれてきた浜崎蒲鉾店。「鹿児島以外の消費者からどんな反応がいただけるのか。それを知ることが、私たちの明日につながると信じています」

(伴走型小規模事業者支援推進事業)