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ストーリーPLUS

interview
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海を想うタオル。人気商品を手放して見つけた、新しい心地よさ

楠橋紋織(2D-72)

約60gのタオルをつくるために、約30gのプラスチックを使っている。そのプラスチックが海を汚しているかもしれないと知ったとき、愛媛・今治のタオルメーカー楠橋紋織(くすばしもんおり)は、自社で最も売れていたタオルの製造を終えることを決めた。

「わた媛(ひめ)」というそのタオルは累計40万枚以上を販売し、自社ブランドを代表する商品として愛されてきた。綿菓子のようなふわふわの肌触り。肌に当てるだけでスッと水を吸うやさしい使い心地。それを支えていたのが、「無撚糸(むねんし)」と呼ばれる素材だ。

一般的な糸は繊維をねじり合わせること(撚〈よ〉り)で強度を持たせるが、無撚糸はほとんど撚りをかけないため、綿本来のやわらかさを残せる。ただ、そのままでは弱すぎて織り機にかけられず、タオルにすることができない。

そこで業界で長く使われてきたのが、水溶性ビニロン(PVA)という補強材だ。PVAで糸を支えながらタオルを織り、仕上げにお湯で洗い流す。すると補強材が溶け、綿本来のやわらかな風合いが残る。

楠橋功社長がその技法に疑問を抱いたのは2009年。染色も自社で手がけるようになったときのことだ。工場で加工する無撚糸タオルが増えるにつれて、排水処理にかかる負荷が大きくなっていることがわかった。排水の汚れ度合いを示す数値は上がり、処理施設には大量の泡が発生する。現場の技術者に尋ねると、その一因がPVAにあるという。

もちろん、法律で定められる排水の基準は守っている。それでも、「本当にこのやり方がベストなのだろうか」。そんな思いは、長く心に残り続けていたという。

楠橋社長がその問いに再び向き合うきっかけとなったのは、2025年。創業95周年の節目に、次の100年を見据え、会社がどんな存在でありたいかを社員同士で話し合った。

「瀬戸内で育まれてきた会社だからこそ、海を大切にしたい」

そんな声が口々に上がるなか、経営企画・広報室室長の小川寛さんは製造工程で使われるPVAのことを改めて調べ始めた。すると見えてきたのは、これまで知らなかった事実だった。

PVAは水に溶けて透明になる。けれど、消えてなくなるわけではない。その正体は、石油などを原料とする合成ポリマー。つまり、分解されにくいプラスチックだ。「わた媛」1枚の重さは62g。その製造工程で29gものPVAを使っていた。研究では、排水処理をした後も、一部は環境中に残ることが報告されている。

溶けて見えなくなることと、なくなることは違う。その気づきは、楠橋社長の背中を押した。「社員みんなが、友人や家族に『うちの会社ってすごいんだよ』と誇れる会社でありたい。不都合な真実から目を背けず、自分たちが心から納得できるものづくりを選びたいと思いました」

めざしたのは、「わた媛」の代替品ではなく、PVAを使わずに「わた媛」を超えるタオルを生み出すこと。そうして改めて素材と向き合うなかで、見えてきたことがある、と小川さんは言う。「単にやわらかければいいわけではなく、パイルがふんわりと立ち上がる弾力があって、洗濯を重ねても毛羽落ちしにくい丈夫さがあること。そのバランスを備えたタオルこそ、私たちが目指すべきタオルだということに行き着きました」

頼りになったのは、楠橋紋織が20年近く磨き続けてきた「カバーリング技術」だ。芯となるやわらかい糸の周りに、極細の天然繊維をらせん状に巻き付け、強度を生み出す。もとはアメリカ向けのオーガニックタオルを開発するなかで生み出した技術だが、日本の消費者が無撚糸によるやわらかさを求めるなか、使う機会は限られていた。

素材も、巻き付ける強さも、およそ1年がかりで100通り以上試した。実際に社員に使ってもらい、「もう少しやわらかい方がいい」「少しチクッとする」といった声を一つひとつ拾い上げた。

新しいタオルの名前は、「KUSU|the sea」。海を想うことも、心地よいものをつくることも、どこかでつながっている。そんな想いを込めた。

タオルは、毎日の暮らしに欠かせないもの。朝、顔を洗った後。お風呂上がり。何げなく手にするその一枚は、どんな風につくられているのだろう。KUSU|the seaを手にしたら、「心地よさ」のありかに、きっと想いを馳せたくなる。